ワンダーゾーン
ワンダーゾーン:福本博文
“7.自己改造プログラムの「成功者」"。この項では、株式会社エス・エス・アイと創業者である田中孝顕氏について記述してある。
田中孝顕と言えば、「思考は現実化する」「成功哲学」「巨富を築く13の条件」「自己実現」「アンドリュー・カーネギーのビリオネア養成講座」などナポレオン・ヒルの数多くの著作の翻訳を手がけたことで有名である。
(表帯より)
「自己啓発セミナー」「前世療法」「チャネリング」「魔法の水」・・・・・・。サイキック・ビジネスの驚くべき裏の世界を描くノンフィクション!
(裏帯より)
私は、オウム真理教のような極端な狂信集団ではなく、日常生活と隣り合わせにある奇怪な世界、私たちの隣人が織りなす「ワンダーゾーン」を舞台にした本をまとめてみたいと考えるようになった。共通するテーマは、現代人の依存心である。(あとがきより)
現在は絶版となっている本である。興味がある人は中古本で入手されたい。
(当時の定価:1,619円+税。通常は、送料込みでも450~500円で中古本が購入できるはずである。中古本を買われる際は元の価格を留意されたい。)
2001年11月初版なので、年月を考慮して内容を把握する必要はある。
目次
- プロローグ
- 高原の心理室
- 地下室の催眠セミナー
- 前世の影に怯えて
- 「宇宙意識」と交信する女
- サイババに魅せられた「医学博士」
- 自己改造プログラムの「成功者」
- 生命水「πウォーター」の謎
- 「波動サティアン」の中身
- ネットに潜む復讐代行屋「R」
- エピローグ
- あとがき
著者の福本博文氏は、雑誌編集者を経て、著述に専念している人物である。
出版社/著者からの内容紹介
自己啓発セミナー、催眠療法、宇宙意識など「オカルトの世界」をビジネスにしている組織を徹底取材。その怪しさ、ウソを暴き出す。
内容(「BOOK」データベースより)
本書は、日常生活と隣り合わせにある奇怪な世界、私たちの隣人が織りなす「ワンダーゾーン」を舞台にした本。全編通して共通するテーマは、現代人の依存心である。
上記の内容紹介ほど批判的な書きぶりではなく、著者が実際に自己啓発セミナーに参加した体験などが記述されている。
株式会社エス・エス・アイは、いくつか自己啓発に関するプログラムの発売をしており、ネットで検索すると、色々な意見を見つけることが出来る。批判的なものから肯定的なものまで様々である。田中氏の著作はいくつか購入したことがあるが、プログラムは購入したことがないため、プログラムに関しては良く分からない。
ナポレオン・ヒル・プログラムを身に付けた田中孝顕とはどのような人物なのだろうか。
この項の田中孝顕の生い立ち等の概要は、
養子に出され、養父母の実妹の誕生後は家族から陰湿ないじめを受ける。徐々に内向的な性格が形成。小学校での成績も極端に悪く、中学校でも成績が一向に上がらず、担任教師の勧めで難易度の低い私立高校3校を受験、3校とも合格し、国学院大学付属高校に入学。大学はそのまま国学院大学に進学したが、ほとんど勉強をせずに、”自分を変える”ために心理学や大脳生理学の本を読みふける。大学病院で自律訓練法を受けたりしたものの、結局、独学で学ぶしかないという結論に至る。この頃から自律訓練法の事業化を考え始め、資金を貯めるために潰れないところに就職をしたい思った。大学の勉強はほとんど勉強しなかったが、無我夢中で勉強をして国家公務員の中級試験に合格。著者の福本氏は、"大脳生理学の勉強をつづけるうちに、学習能力が高まっていたのだろう。"と書いている。結局、公務員は給料が安く、金が貯まりそうになかったため、3年半で退職。その後、外国弁護士事務所でアルバイト。この頃、海外の雑誌に脳波バイオフィードバック装置の記事を発見。270万円で購入。
資金を貯めるため、1973年東急不動産に転職。この時期は、海外ブランド品を並行輸入して会員に販売する副業で月300万円の利益を上げるようになっていた。1976年に東急不動産を退職。
その後、本格的に事業に乗り出す。この頃、通産省工業技術院製品科学研究所が発表した国内で製造されたバイオフィードバック装置(1台75万円)を購入し、装置の販売活動を開始。養父を騙し、実家を担保にいれさせ、700万円を借りる。当初全く売れなかったが、自律訓練法を組み入れた目標達成テープを作成し、脳波フィードバック装置とともに売り出したところ成功し、年商6億に達した。
しかし、経理担当社員に金を持ち逃げされ、会社は倒産。実家は差し押さえられ、2億5千万の負債を負う。この頃、名前を、倒産を機に平蔵から孝顕に改名。
苦手なセールスマンをしたり、自己啓発テープの販売代理店を始めて、わずか2年数か月で負債を返済。再び自社製品を売る仕事に戻った。
38歳の時に弁護士事務所に17年勤務していた同じ年の女性と結婚。妻が会社の印鑑等を管理し、会社の実質上の社長にもなった。
1986年商号をエス・エス・アイに変更。SSI能力活性研究所を新設。高校時代に読んだナポレオン・ヒルの「巨富を築く13の条件」に感動した経験や「成功哲学」を読んだことから、ナポレオン・ヒル・プログラムの販売を次のターゲットにした。ナポレオン・ヒルは1970年に死亡していたため、渡米を何度か繰り返した後、ナポレオン・ヒル財団の理事長であったW・クレメント・ストーンと面談に成功。何回か面接を重ねた後、ようやく契約に漕ぎ付けた(取得権利金が2億円。それを知った会社の5人の部長全員が退職してしまったとのこと)。現在、もともと人付き合いの不得手だった田中氏は、滅多に出社することもなく、独りで研修施設にある八ヶ岳に籠り、本を執筆する生活に追われている。インターネットや新聞で情報収集し「超整理法」で整理している。内気な性格は一向に改善されず、最近ではセミナーの講師もつとめなくなった。また、 田中氏は、田中氏の著書購入後、資料請求ハガキを送ってくるのは、35歳から45歳くらいの読者が多い。ナポレオン・ヒルのユーザーは20代が多く、SSPS-V2は年齢に関係ない。20代のユーザーは、人生に目標を持ちたいと思っている。職業別では、会社員についで警察官や教師が多い。中には開封後の返品や離婚を理由に消費者センターに持ち込むユーザーもおり、これまで裁判所の調停が2件あったが、労力を考えると返金せざるをえない。
また、教材が高いと言われるがハードがセットであるため高くならざるを得ず、約1万5千円のプログラムもあるが、価格が安いため内容も安いと思われのか売れていない。と言っており、結構ストレートな対応をしているような印象がある。また、著者の福本氏は続けて、ある催眠療法家は、田中氏の書いた本のノイローゼの患者がたくさん治療にくると言っていた。ユーザーの大半は依存的な姿勢で、自分の性格を改善したいと思っている人たちではあるが、プログラム開発者(注:田中氏のこと)が歩んできた半生を振り返ればわかるように、簡単に性格は変える方法など存在しない。
田中氏が著書とプログラムを連動させるようになったのは、生長の家が本を出版し、信者を集めているという記事を読んだことがあったためである。プログラムの購入は、本だけでなく、約60人の営業部員による熾烈な電話セールスによるものである。田中は、バブル期に6億5千万円で世田谷に自宅を建設、さらに田園調布に9億5千万で270万の土地を購入。田中氏は、金持ちになっても税金対策や忙しさであまり楽しくはない。成功とは、目標設定して何事かを精一杯やってゆく過程が凝縮されたものと考えている。
バブル後、自己啓発関連の会社は軒並み倒産し、東京都消費生活総合センターに寄せられる自己啓発関連の相談数は、1995年をピークに徐々に減少。株式会社エス・エス・アイは唯一、安定した売上を記録している。しかし、金に不自由しなくなっただけで、願望実現のプログラムを開発した本人は、決して幸せにはなっていない。田中氏は人付き合いが苦手で、学生時代の友人とは一切交流がなく、夫婦間に子供はいないうえに、1年の大半を妻と離れて暮らしている。
現在の田中氏は口調もきわめて控えめで、いまだに劣等感を克服していない。インタビューは1時間の約束であったが、3時間を超えても腰を上げようとはしなかった。インタービューの中断を切り出せないようであった。どんな質問にも正面から答えてくれた。
田中氏は少年の頃とさほど変わっておらず、人前で指導力を発揮することもできず、妻に経営権を握られ、八ヶ岳山麓で独りで暮らしてきた。成功の喜びを分かち合う友もいない彼は、それでも自分のように自己改造を切望する人々に向けて、熱いメッセージを送り続けている。
と締めくくっている。
その他の項も面白く読むことが出来た。現在(2012/8現在)、入手が中古に限られているのは残念だが、図書館や中古本で読む機会があれば、読んでほしい。
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